「文壇界に殴り込みをかけてやる!」
お笑い界でトップをとった著者(爆笑問題・太田光)の小説処女作です。
いつもの著書でみせる、相方田中さんとのおちゃらけトークな一面は皆無で、文学愛が溢れる太田さんの真摯な一面が見られます。
短編9話の本作、やわらかなファンタジーやSF要素、そして現代の紛争や戦争についての考察が含まれた物語など、特盛の作品集です。
本書は読む時間はなくとも、以下の分かりやすいあらすじは是非読んでほしいです(笑)!
荊の姫(いばらのひめ)
あらすじ:
時は昔。ある国の山奥に、まるで呪いでもかけられたようにイバラで覆われた古いお城がありました。その最上階には、イバラに全身を覆われて寝台に寝かされた少女と、共に生活をする謎の老婆がいます。記憶までも曖昧な少女の問いかけに、「いつか、思い出す時がくるよ」と多くを語らない老婆。二人の関係と、イバラの拘束が解けて自由になる日はやって来るのでしょうか。
タイムカプセル
あらすじ:
沖縄の美しい海を見渡す丘の上。20歳になった日米混血の青年が、10歳時に埋めた「タイムカプセル」を掘り起こそうとします。多感な少年期に家族への想いを綴った大事な手紙。高揚する気持ちとともに、思いきり土にシャベルを差しこんだ次の瞬間。青年の身体は一瞬で粉々になりました。大戦時に投下された爆弾が、もう一つの「タイムカプセル」として土の中で眠っていたのです。米軍爆撃機の沖縄空襲から65年。ある一つの家族の葛藤と、過去から現在への不思議な繋がりが描かれます。
人類諸君!
あらすじ:
時は西暦20XX年。紛争や疫病、滅亡の危機にさらされた人類は、最後の頼みの綱に天才・風間博士の演説を全世界に放送することに。世界津々浦々、同時通訳で視聴されたその演説は「人類諸君!…」から始まり、「…健闘を祈る!」で締めくくられます。人類最高の叡智、風間博士が伝えた内容はいかに。
ネズミ
あらすじ:
皮肉屋でクラスの皆から壮絶ないじめを受ける少年、ネズミ。先生の救いの手も拒否するひねくれ者の彼には、一つだけ楽しみがありました。それは放課後の美術室で絵を描くこと。それでも、日々のいじめは止まず、復讐の念はつのります。そんなネズミを次の宿主候補にと「悪魔」が一目置くように。人間の大量殺戮が見たい悪魔は、多くの人を集めようと、ネズミの絵を魅力的に加筆します。思惑通り、興奮した校内の生徒が次々とネズミの絵の前に集まるなか、いつも通り美術室に入ったネズミがとった行動は、悪魔も予想外のものでした。
魔女
あらすじ:
時は中世。元気そのものだったある若夫婦の夫の急逝について、地域の判事が下した判断は「その妻が魔女であるから」でした。彼女の美しすぎる容姿がその信ぴょう性を高め、人々の同情をかうことなく処刑の日をむかえます。孤児となったその娘も、成長するにつれて香り立つ母親譲りの美貌。そのせいで、ついには母親と同じ憂き目にあいます。処刑台の上で走馬灯のように思い出す母の愛と、人生最後で想いを巡らせたのは、初恋のあのひとでした。
マボロシの鳥(表題作)
あらすじ:
今宵、この世のものとは思えない素晴らしいものが見られると、超満員状態のオリオン劇場。「魔法」と称されるその芸は、芸人からのある約束ごとを劇場が守ることで成り立ちます。ステージで披露されたその芸は、あまりの美しさに観客からは感嘆のため息、劇場スタッフまで思わずうっとり。われながら今夜も最高だと、満足げに劇場内を見渡す芸人でしたが、視線の先であの約束ごとが守られていない事に気付きます。焦る芸人と恍惚状態の観客。人に富と名声を与える「魔法」は今、自由を与えられ、己の意思で羽ばたきます。
冬の人形
あらすじ:
男手一つで育ててくれた父の死に目に、心の葛藤から会えなかった主人公・冬子。社内恋愛の末、未婚の母となることを選んだ冬子に、反対だった父。不器用ながら心配してくる父の言動が癪で、最近は実家への足も遠のいていました。通夜が終わり、近親者が父の亡骸の横で一息ついているその時。幼い娘が夢中になってお人形遊びをするその姿に、自身の幼き頃の父との思い出が、胸を詰まらせます。
奇跡の雪(個人的最秀作)
あらすじ:
大国の爆撃で荒廃した砂漠の街に、百年ぶりの雪が降ります。ある者は空を見上げ、ある者は神のお告げと、初めて見る自然現象に各々意味を見いだします。そこには、双子のように仲が良い少女二人と、ふたりから兄の様に慕われる一人の少年がいました。あの降雪からひと月後のある日。まるで二度目の雪と見まがうような目を覆いたくなる大惨事を、三人は引き起こします。幼い純粋な想いを利用する狂信者と、貧しさから選択の余地がない少年・少女。今現在、同じ世界に存在するその日常を、著者の描写が読者に問いかけます。
地球発・・・・・・
あらすじ:
地球発、銀河ステーション経由の列車に乗った「ボク」。相席で向かいに座った男性の人懐こい笑顔に、大好きな「キミ」の面影を感じます。汽笛が鳴り、億万の星の瞬きの間を駆け抜ける銀河鉄道。聞き上手な相席男性との、楽しいお話は尽きません。窓から見える宇宙の果てまで飛んでいきそうな渡り鳥のように、「ボク」から「キミ」への想いも募るばかりです。
文庫版 著者 あとがき
あとがき 要約:
ストレートな言葉で表現するラジオや、エッセイが主だった自分が、自分(太田光色)を消して短編小説を書いた経験は、何事にも代えがたい新鮮な体験でした。しかし、そんな本人の想いとは裏腹に「太田光が前面に出過ぎて顔がちらつく。物語に没入できない」と、同様のご意見を多数いただき、正直驚きました。これでもだいぶ抑えたつもりだったのですが。。また、直木賞をはじめとする各文学賞の候補作品になれなかったことが、大変悔しく、いずれはこちらを向かせてやりたいと思います。
文章を書くことが好きな人には、生涯こころにクサビになるような一冊です。
著者の発想はユニークで素晴らしいのですが、強引にストーリー展開させるために、ディティールの説明を省くというなかなかのわんぱく小説です。
もう少し手直ししたら、秀逸な作品群になりそうなのに、なぜこのわかりにくさのまま世に出すのか。
編集者も責任は半分、おしい一冊です。
磨かれてない原石に、読者はどのような反応をするか!?
それが出版社の裏テーマのような気がしてなりません。
面白さ・分かりやすさよりも「オリジナリティ」を優先した本作は、異端で貴重な一冊です。
文章書くのが好きな人には、是非とも読んでいただきたい。
「読んでみたん!?」な一冊です。
以下、読書感想です。
・荊の姫 感想
ファンタジーな語り口で読者の想像を膨らませてくれます。
メインで語られるお姫様が高貴な存在であることを、連想させるための周辺描写がないのが残念です。
どうして書かないんだろうと、不思議に思っていたら、それは、著者がすすめたいストーリーに邪魔だったから、細かい描写は省いたようです。
ちょっと強引なストーリー展開に、最後のオチでどかんと跳ねるかもと期待しましたが、オチが弱く、ちょっぴり消化不良です。
山奥のお城というミステリアスな状況は素晴らしい。
但し、最大のミスマッチは、主人公が過去におかした罪が、現在受けている罰に対して、明らかに軽微で、バランスがとれておらず、強引な印象を受けます。
修正するとしたら三点。
・お城に住んでいる理由の肉付け(高貴であることの正統性を述べる)
・おかした罪と、現在の罰のバランスを。
・主人公に罪を与えている存在が、自然界のルールを超越したスーパーパワーを持っているが、その理由が不明なので、すこしほのめかしてほしい
以上三点を描写してくれたら、作品集のトップバッターにふさわしい、最後まで緊張感がつづくような作品になっていたかもしれません。
次の読書は、著者の次作の小説集「文明の子」をぜひとも読んでみたいです。
太田さんのサービス精神旺盛な、あの面白いキャラクターが好きです。LO~VE。
そうね、、ダーリンの次の一手は、、、、、!!!
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